1-1. はじめに
贰惭滨除去フィルタ(エミフィル)は電子機器の電磁ノイズ対策を行うための电子部品で、シールドなどとともに使われます。このフィルタは配線を伝導する電流のうち、電磁ノイズの原因となる成分だけを抽出し、除去するものです。1章では、電子機器でこの贰惭滨除去フィルタ(エミフィル)が使われている背景を説明するとともに、電磁ノイズの対策に使われる代表的な部品であるシールドとフィルタの働きについて概要を紹介します。
1-2. 电磁ノイズ障害とは
电子机器に外部から强力な电磁波が加わると、回路に不要な电流が诱导され、意図しない动作を引き起こしたり、本来の动作を妨げる场合があります。外部から加わるエネルギーが强力なときは、电子机器が破壊されることもあります。外部から加わるエネルギーが小さくとも、放送や通信に使う电波に混入した场合は、放送や通信の电波の弱い场所では受信ができなくなったり、音声に异音が入ったり、映像が乱れたりします。このような外部の电磁波による障害を、电磁ノイズ障害と呼び、障害を与える电磁波を电磁ノイズ(以下ノイズ)と呼ぶことにします。
ノイズは様々な电子机器に障害を与えます。また、発生源もさまざまです。ある机器(例えば洗濯机や冷蔵库など)には全く障害を与えないノイズも、别の机器(例えば础惭ラジオなど)には甚大な影响を与えることもあります。そこで、私たちが电子机器を安心して使うことができるように、电子机器から発生するノイズを一定値以下に抑制したり、一定レベルのノイズが加わっても电子机器が正常に动作することがルール化されており、ノイズ规制と呼ばれています。
電子機器をノイズの加害者としてとらえたとき、ノイズの発生をエミッション(emission: ノイズの放出)と呼びます。一方、電子機器をノイズの被害者として捉えたとき、ノイズに対する耐性をイミュニティ(immunity: ノイズ耐性)と呼びます。ノイズ規制では、電子機器のエミッションとイミュニティについて定められています。(イミュニティは、EMS: ElectroMagnetic susceptibility電磁感受性という言葉で表されることもあります)
1-2-1. 電磁ノイズの分類
电磁ノイズを発生源で分类すると、図のように自然ノイズと人工ノイズに分けることができます。
このうち自然ノイズは电子机器が使われる以前から存在するもので、雷や静电気が代表的なものです。自然ノイズに対しては、电子机器はイミュニティが求められます。
人工ノイズは、电子机器が使われるようになってから発生するノイズで、エミッション、イミュニティの双方で取り扱われます。电子机器が普及するにつれて人工ノイズによる障害が増大しています。この点について次项で详しく述べます。
1-2-2. 電子機器の密集に伴うノイズ問題の変化
私たちの身の回りで使われる电子机器の密度が増え、また、それぞれの电子机器が高性能化するにつれて、ノイズ障害の内容や程度は変化してきています。例えば、デジタル回路が普及する1970年以前では无线通信机同士の干渉(混信など)が问题になっていましたが、パーソナルコンピュータなどの家庭用デジタル机器が普及すると、これらの机器から発生する电波によりラジオやテレビの受信が障害を受けることが问题となりました。
一般に电子机器の密度が増えると、加害者と被害者の间の距离が缩まるので、ノイズ障害の程度が大きくなります。また、电子机器の性能が上がると、回路の动作周波数が高まり、より高周波のノイズが発生するため、影响の出る周波数范囲が拡大します。一方で、电子机器の省电力化によって低电圧で动作する回路が増加しており、これにより、エネルギーの小さなノイズであっても影响が出ることが多くなっています。
电子机器の高密度化、高性能化、小型化は今后もいっそう进むと思われますので、ノイズ障害はより深刻になると考えられます。
1-2-3. 電子機器の自家中毒「イントラシステムEMC」
电子机器に外部からノイズが加わらなくとも、ノイズ障害が発生する场合があります。电子机器内の一部の回路が発生するノイズが元で、他の部分の回路が障害を受けるもので、イントラシステムEMCと呼ばれています。例えば、携帯电话にデジタル回路を内蔵する场合では、下図のようにデジタル回路のノイズが携帯电话の受信性能を劣化させる(受信感度を低下させる)场合があります。このような场合には、一般のノイズ障害に比べてノイズの発生源と被害者の间の距离が极端に小さくなりますので、障害も深刻になります。场合によっては、ノイズ规制による限度値よりもはるかに厳しいレベルでノイズ対策が行われています。
1-3. ノイズ対策
ノイズ障害は、図1-7に原理図を示すように、ノイズの加害者と、被害者と、伝搬経路の3者が存在するときに発生します。これらの要素のうちの一つを无くすことができれば、ノイズ障害は无くなります。
したがって、ノイズの発生源や被害者で対策することも可能です。例えば、デジタル回路やスイッチング电源、発信机などを一切使わなければ(白热电球など)、电子机器の発生するノイズはごく小さくなります。また、被害者侧でもソフトの冗长処理などで、多少情报が変化しても信号を回復できる场合があります。これらの手段は根本解决になり得る场合もあるのですが、多くの场合は电子机器の性能を着しく劣化させたり、大型になるなどの副作用が大きく、现実的ではありません。
そこで通常は、図1-8に示すように、伝搬経路でノイズを遮断することが行われています。ノイズの伝导には空间伝导と导体伝导の2种类がありますが、図に示すように空间伝导にはシールドが、导体伝导にはフィルタが使われます。
図1-7に示すように、空间伝导と导体伝导は、配线をアンテナとして相互に変换される性质があります。したがって、ある箇所で导体伝导だけが问题であったとしても、空间伝导を全く配虑しないでよいということにはなりません。
1-3-1. シールド
シールドとは、図1-9に示すように対象物を金属などの板で囲うことで周囲から电磁界を遮蔽することを指します。
シールドの効果は一般に、使う材料の导电率や透磁率、厚みにより左右されますが、通常の电子机器のノイズ対策では、アルミ箔などのごく薄い金属板でも十分に大きな効果が得られます。电子机器をノイズ対策するときの効果はこのような材料の仕様よりもむしろ、囲いを形成するときの接続方法(隙间の有无や接触抵抗など)により左右されることが多いので、注意が必要です。
シールドに放热などのために开口部をつくるときは、全体の开口面积の大小よりもむしろ、个别の开口部の最大长を抑えることに配虑します。図1-10に示すように细长い开口部やスリットがあると、この部分がスリットアンテナとして働き(図で、长さ濒が1/2波长を超えるようになる高周波域では顕着に)、シールドを电波が出入りすることになります。そのようなことの无いように、开口部は短く区切って形成します。この意味で、パンチングメタルやエキスパンドメタルのように多数の小さな穴が开いた板材料は、换気とシールド効果を両立させるよい材料だといえます。
1-3-2. フィルタ
フィルタとは、図1-11、1-12に示すように、导体を流れる电流のうち、必要な成分を通し、不要な成分を除去する部品や働きを指します。図1-12ではノイズはグラウンドに流し出していますが、このほかに部品内部でノイズのエネルギーを吸収する场合や、ノイズ源侧に跳ね返す场合(インピーダンスを上げる场合)もあります。
電子機器のノイズ対策では、通常、ノイズは図1-13に示すように比較的高周波域に偏在していますので、フィルタには高周波成分を除去するローパスフィルタを用います。このローパスフィルタには、インダクタ(コイル)や抵抗、コンデンサなどの汎用部品を使うこともできますが、ノイズを完全に遮断するには、専用部品である贰惭滨除去フィルタが使われます。本稿の第6章では、この贰惭滨除去フィルタを詳しく紹介しています。
このようなノイズの周波数的な偏在を利用したフィルタの他に、电圧の违いを利用したフィルタ(バリスタなど)、伝导モードの违いを利用したフィルタ(コモンモードチョークコイルなど)もあります。
また、これらのフィルタ以外にもトランスや光ケーブル、光アイソレータなどを一种のフィルタとして利用する场合もあります。これらは场合によっては极めて优れたノイズ除去効果を発挥しますが、适用できる场面が限られています。
1-4. シールドとフィルタの使い方
1-4-1. シールドとフィルタは1カ所で使う
导体を伝导するノイズにはフィルタを、空间を伝导するノイズにはシールドを使いますが、ノイズが伝导する导体はアンテナとしても働きますので、この2つの伝导はアンテナとなる导体を介して相互に変换されます。このためノイズを完全に遮断するには、ある箇所でフィルタとシールドを同时に使う必要があります。
例えば空间伝导を遮断するためにシールドを使う场合、図1-14のようにシールドを贯通する导体があると、この导体がシールド内部のノイズを拾い、シールド外に导き出してノイズを放射する现象が起きます。结果として、シールドだけでは空间伝导を完全に遮断することができません。
同じように、导体伝导を遮断するためにフィルタを使う场合、図1-15のようにフィルタの前后の配线が空间伝导を介して结合する场合があります。结果として、フィルタだけでは导体伝导を完全に遮断することができません。
図1-16のようにシールドとフィルタを1カ所で组み合わせて用いると、空间伝导、导体伝导の双方が完全に遮断できますので、ノイズを完全に除去することができます。
なお、図1-17のようにノイズ源とフィルタの间の导体の长さが十分に短い场合には、导体のアンテナとしての効果が无视できますので、フィルタだけでもある程度はノイズを除去することも可能です。したがって、ノイズ発生源のごく近くでフィルタを使える场合には、フィルタだけでノイズ対策ができます。
1-4-2. フィルタとグラウンド
一般に、フィルタやシールドを有効に働かせるには、良好なグラウンドに接続することが必要です。
フィルタにバイパスコンデンサを内蔵しているとき、グラウンドは図1-18に示すようにノイズの电流をノイズ源に还流させるルートとなります。この部分のインピーダンスがごく低くなるように配虑します。
グラウンドのインピーダンスが大きいと、図1-19(补)に示すように、ノイズの电流によりグラウンドに电圧が表れ、ノイズが十分除去できなくなります。また、このグラウンドを他の线に取り付けたフィルタが共用しているときは、グラウンドに现れた电圧がフィルタのコンデンサを通じて他の线に逆流する场合もあります。
このようなグラウンドのインピーダンスを仲介したノイズの结合を、共通インピーダンス结合と呼びます。また、このようにグラウンドにノイズが乗っている状态を、コモンモードノイズが発生していると呼ぶこともあります。コモンモードノイズについては、后の章で详しく绍介しますが、共通インピーダンス结合はコモンモードノイズを発生させる仕组みの一つです。
このようにコンデンサを内蔵したフィルタの効果は接続するグラウンドの条件の影响を强く受けますので、インピーダンスが低く、安定したグラウンドを使う必要があります。
1-4-3. シールドとグラウンド
シールドの场合も、グラウンドが重要です。
静电シールドでは、グラウンドへの接続が必须で、原则として大地(ゼロボルト)に接続します。グラウンドに接続する线にはシールドする电界の変化に応じて电流が流れるので、低インピーダンスである必要があります。
また、シールドケーブルを使うときは、シールドは内部导体を流れる电流の帰路を兼用する场合が多いです(例えば同轴ケーブルの外部导体などのように)。この电流を返すことのできるグラウンド(信号をシールドする场合は、回路グラウンド)に接続する必要があります。
一方で、図1-19の场合のようにグラウンドにノイズが诱导されている场合には、このグラウンドにシールドを接続すると、シールドがグラウンドのノイズを引き出して放射させるアンテナとして働くので、ノイズを増大させることにもなりかねません。シールドを接続するには、电圧が安定し、かつ、インピーダンスの小さいグラウンドを选ぶ必要があります。
実用上の比较的良好なグラウンドとしては筺体シールドケースがあります。机器全体を囲うシールドケースがある场合には、大地への接続が无くとも、このシールドケース自体がノイズ対策上は良好なグラウンドとなります(静电気対策などの场合で、放电电流を大地に逃がす必要がある场合には、大地への接続が必要です)。このグラウンドを筺体シールドグラウンドと呼ぶことにします。
シールドケーブルのグラウンドにも、この筺体シールドグラウンドを使うことができます。ただし、前述のようにシールドを信号の帰路として机能させるためには、回路グラウンドにもつなぐ必要がありますので、筺体シールドグラウンドと回路グラウンドが分かれている场合には、接続が复雑になります。図1-20に、シールドケーブルのグラウンド接続の例を示します。
1-4-4. グラウンドの強化
以上のように、フィルタやシールドの効果を発挥させるには安定したグラウンドに接続する必要があります。また、机器全体を囲うシールドケースを使うときは、このシールドケース自体を安定したグラウンドとして使えます。したがって、シールドは、グラウンドを安定にする働きがあるといえます。
一方で、このシールドケースに出入りする配线があるときは、図1-14に示したようにシールドにノイズが出入りする穴をあける効果を持ちますので、シールドケースグラウンドを不安定にすることがあります。このような场合、この配线にフィルタを使うと、ノイズの出入りが无くなるため、シールドケースグラウンドを安定にする効果があります。
このように、适切に使ったシールドやフィルタは、グラウンドを安定にする働きを持ちますので、シールドと、フィルタと、グラウンドは互いに助け合う関係にあるといえます。
グラウンドには上记のシールドケースグラウンドのほかに回路グラウンドがあり、シールドケースグラウンドに比べると、多くの场合ノイズの电圧が诱导されています。このようなグラウンドを「ダーティなグラウンド」と呼びます。これに対して、ノイズが诱导されていないグラウンドを「クリーンなグラウンド」と呼ぶことにします。
シールドやフィルタを接続するグラウンドには、クリーンなグラウンドが望ましいのですが、信号の帰电流を戻したり、ノイズの电流を発生源に反したりするには回路グラウンドへの接続が必要です。回路グラウンドがダーティなときは、回路グラウンドのインピーダンスを下げたり、回路基板に沿ってグラウンドプレーンを配置したり、筺体シールドグラウンドに接続したりして、回路グラウンドのノイズ电圧を小さくします。
このようにグラウンドのノイズの电圧を下げ、安定にする操作を、グラウンドを强化するといいます。回路基板の一部をシールドケースで覆うことは、グラウンド强化に役立ちます。図1-21にグラウンド强化のいくつかの手段を示します。
1-4-5. フィルタとグラウンド
シールドケースにケーブルを接続するときは、ケーブルを通じてノイズが出入りすることを防ぐために、フィルタを取り付けます。 このフィルタのグラウンドは回路基板上に形成するのですが、安定したグラウンドとするために、多くの場合は回路グラウンドではなくシールドケースグラウンドに接続します。そこで、ケーブルの取り付け個所には、シールドケースグラウンドに接続したフィルタ用のグラウンドを作ることが多く行われています。ここではこのグラウンドをフィルタグラウンドと呼ぶことにします。
フィルタグラウンドは、シールドケースグラウンドだけではなく、回路内で発生したノイズをノイズ源に帰すために、一般に回路グラウンドにも接続されます。この场合は回路グラウンドのグラウンド强化を兼ねることになります。また、シールドケーブルを使うときは、シールドをフィルタグラウンドに接続する场合もあります。このような场合、シールドケーブルの効果はフィルタグラウンドの良否に左右されますので、ごく低インピーダンスでシールドケースグラウンドに接続する必要があります。
図1-22にフィルタグラウンドの例を示します。フィルタグラウンドは、シールドケースグラウンドに対して、特に低インピーダンスになるように配虑します。
なお、1-4-2项では、フィルタのグラウンドはノイズ源侧に(すなわち回路グラウンドに対して)低インピーダンスで接続すると説明しましたが、図1-22では、シールドケースグラウンドに対する接続を优先させています。これは、通常はケーブルの接続箇所はノイズ源から远いため、ノイズ源に低インピーダンスで帰すことが実质的に困难であるためです。また、他の回路のノイズにより、回路グラウンドがダーティとなっている场合が多く、フィルタグラウンドを低インピーダンスで接続しても、効果が上がりにくいという事情もあります。
したがって、ノイズ源のごく近くで単一回路に対してフィルタを使うときは1-4-2项の説明のように回路グラウンドにフィルタを接続しますが、ケーブルの接続部のようにノイズ源から远く、かつ、复数のノイズ源を考虑する必要があるときは、适用が困难になります。そこで実用的な手段として、ケーブルの接続部でフィルタを使うときは、図1-22に示したように、シールドケースグラウンドのような安定したグラウンドを探し、フィルタグラウンドを接続することが行われています。
第1章のチェックポイント
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电子机器の动作に障害を与える电磁波を、ノイズと呼びます
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ノイズを伝搬経路で遮断する手段には、シールドとフィルタがあります
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シールドとフィルタを有効に机能させるには、グラウンドが重要です
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